今年はことのほか暖冬でこのまま春を迎えるのではないかという気さえしていたが、このところ関西では雪がちらついたりし、やっとそれらしくなってきた。
ＳＭに季節は関係ないけれど、情熱的な夏のプレイに比べ、冬というのはお互いの内面を見つめ合うような親密な時間や空間が良く似合う。
ただ単に外を歩くにしても、お互いの温かみが有り難い季節だ。
俺は決して肩を抱いたりということはしないけれど、M女が黙って腕を組んできたりすると何か自分が頼られているようで嬉しくなる。
重ねられた腕と腕はお互いの結び付きを更に深め、何も喋らずともそこからは相手の気持ちが伝わってきたりする。
プレイという程のものではないけれど、ＳＭにおいて本当に大切なのはこういうことではないだろうか？
冬の愉しみで忘れてはならないのは、何と言っても温泉だ。
場所は何処でも構わないけれど、個人的には近過ぎず遠過ぎずの距離がいい。
旅行気分が十便に味わえて、さっと帰れる、そんな場所。
ただし泊まる宿には最大限注意を払いたい。
まずもって高級洋風ホテルなどは問題外だ。
温泉につかりに行って夜ベットの上で眠るというのはおでんにソースをかけて食うようなもので、ミスマッチも甚だしい。
やはりここは少ししなびた旅館に限る。
ただし、あまりにしなび過ぎると不気味な雰囲気が漂い始めるのでさじ加減が難しいが、こればっかりは自分の足で探すしかない。
麻縄だけは忘れず鞄に入れておきたい。
俺は普段のプレイではソフトロープやら拘束具などを使い分けるが、この場合はあくまで麻にこだわりたい。
浴衣を着たまま縛り上げられた女体には、裸とはまた違ったエロティシズムがある。
そんな美しい姿を眺めながら蟹味噌をあてに美味い酒でも呑めば、少々早死にしようがその人生に文句は言えない。
縛られて自由を奪われたM女を横にはべらせ、口移しで酒を与え、箸で口に料理を運んでやるのも刺激的なプレイの一つだ。
その情景を想像されたい。
これこそ主従関係が際立つひとときだとは思わないか？
家の近所に美味いラーメン屋が一軒あるだけで人生がずっと豊かになるのと同様、馴染みの温泉宿があるというのは想像以上に人生を豊かにしてくれる。
そんな金銭的余裕がない？
だからこそ男は一生懸命に働かなければならない。
グータラ男にSMは相応しくない。
話を戻すが、程よくしなびて、かつ、混浴露天風呂があり料理が美味くて部屋で食べられるというのが理想だが、懸命に探せばなくもない。
奈良県にある洞川温泉など、その理想の一つだと言える。
書店に並んでいる温泉宿の情報誌には「カップルで貸し切りの温泉宿」などといった特集がよく組まれている。
残念ながらパートナーのいない方も、いずれ現れるであろう理想のM女のためにこういった情報を仕入れておくのは有意義だし、あれこれ想いを巡らしながらぱらぱらページをめくるのもまた楽しい時間だろう。
何もそれは温泉宿に限ったことではなく、美味しい店、ＳＭプレイに最適なホテル、露出プレイに絶好の場所．．．等々これはこれで楽しい情報収集だ。
その努力の代償としてパートナーの笑顔が見られるのなら、やりがいもあるだろう。
他にも冬の愉しみとして、「二人で鍋をつつく」などというのもある。
M女が手際よく肉やら野菜やらを鍋に入れるのを眺めていると思わず見惚れてしまう。
男同士でする鍋は順序関係なしに一気にガサッと入れるから色気も何もあったものではないない。
それに比べて、煮上がる順番やだしの出具合まで計算する女性の繊細さには感動せずにいられない。
「お肉もうできましたよ。はい、召し上がれ．．．」
Ｍ女の皆さん、男の心を射止めるのに高価なプレゼントなど不要なり。
男は単純だから、こういう一言で結構簡単に惚れたりする。
最も、ここにお集まりのＭ女の皆さんは先天的にこの手の魅力に富んでいるので必要以上に意識することもないが、ここ一番で「優しさと意地らしさ」がさりげなく滲み出た言葉を使うと効果的だろう。
懐の暖かい時は、外食で鍋も悪くない。リーズナブルな値段にもかかわらず個室で鍋を食べさせてくれる店も探せば見つかる。
こうなると更に愉しみは増す。
あれこれ書くのも野暮なので、何をするかはご想像にお任せする。
他にも冬には「熱燗」とか「着物」とか「正月」など、味わい深い風物が多い。
「好きな季節は？」
と問われれば冬と答える人は少数派だが、お互いの心の結び付きを深めるには一番適した季節だと俺は思う。
普段ぶっ飛んだことをしている分、俺たちにとっては冬こそ実りの季節なのだ。
ｓｈａｄｏｗ
