特に天気が悪くなければ約二時間、親父の車椅子を押して毎日散歩に出かけている。

親父は外で陽に当たるのが好きなので散歩の距離がどんどん延び、いつの間にかこのような長時間の散歩が習慣となった。

毎日二時間の散歩は俺にとってかなりの負担だが、日々、親父ファーストを最優先にしている。

先日、そんな散歩においてスシローの看板が目に入ったのを機に、

「一番好きな寿司ネタは?」

という会話になった。

「どうしても一つというならマグロやな」

と、俺。

親父は、

「トリガイ」

何ともマイナーなネタである。

「なんでまた?」

と訊くと、

「いつまでも口の中にあるので、酒が多く飲めるからや」

まあ、何とも親父らしいといえば親父らしい。

何せ昔はかなりの貧乏だったからな。

「それやったら、シジミエキスの粒をこっそり口に放り込んだら店では酒の肴要らずやで」

と俺が返したのだが、どうも親父はシジミエキス粒を口にしたことがないらしく、返事がないままそこで会話が終わってしまった。

そこからまたしばらく沈黙の散歩が続くわけだが、といっていまさら会話が少ないからといって雰囲気が重くなるような関係でもなし、のんびりとした時間が流れるだけだ。