乱筆多謝...

最近ではめっきりその機会も減ったが、俺が手紙を書いた際、文章の最後に記す一言である。

実際のところ俺の筆は乱筆というか豪快そのもので、それが筆上手がわざと崩して書いたように見えるようでもあるらしく、時々、

「習字でも習っていたのですか?」

などと言われる。

台湾では街の食堂に行けばメニュー名の印刷された伝票が各テーブルに置いてあることが少なくない。

それにチェックを入れるなどしてオーダーするわけだが、そんな伝票がない場合、注文しようにもこちとら発音がわからないので、俺は持参したB5のノートをちぎって料理名を書いて渡すようにしていた。

するとそれを向こうへ持って行った店員が皆を集め、

「ねえねえ、あそこのテーブルに座っている客がこの紙を渡してきたのよ!」

ってな具合によくなったものだ。

それはひとえに俺のそのような行為ではなく筆跡に対するものであるといつも感じた。

中には紙を折り畳んでポケットに入れた者もいた。

まあ、それはいい。

乱筆多謝...この一言のルーツは高校の卒業文集で担任の教師が文章の最後に添えていたものを俺がそのままパクッたのだ。

実際にその教師も乱筆であったわけだが、その一言が俺にはとても洒脱というか格好良く見えた。

せっかく入った三菱商事を早々に退社して教師に転職した変わり者だったが、その分、真の教育者たらんとする信念の人でもあった。

進路の第一志望に東京大学法学部と書いたらこっぴどく怒られたのが懐かしい。

今でも乱筆多謝の一言を記すとその教師の顔が思い出される。