その若さでどうやって手に入れたのか知らないが、とあるM女の居住である山手線駅前タワーマンションに何度か泊めてもらったことがある。
マンション住まいというのは皆一つ屋根の下という感覚なのか、お互いに知らない住民同士でも挨拶をするのだな。
というのも、エレベーターにおいて明らかに初対面の俺にみんな挨拶をしてくるから。
これには新鮮な驚きを感じたものだ。
あるいはこれは東京のタワマン独自の文化なのか?
加えて、庶民にとって高級マンションでは何かと不慣れなことが多い。
「仕事が終わって帰宅するまでお風呂にでも入ってのんびりしていて下さい」
ということだったので風呂に入ろうとしたのはいいが、どこをどう見ても浴槽には蛇口がなく、
「一体この風呂はどうやって湯を張ればいいのか?」
という極めて基本的な問題で悩んだものだ。
結局、シャワーを適温にしてその湯を浴槽に張った。
後で聞いてみれば、何と湯沸かし用の循環穴にしか見えなかったところから湯が出てくるというではないか。
ボタンを押してみれば確かにその通りだった。
確かに高級マンションというのはこのようなハイテク設備があって眺めもよく、魅力的なのは確かだ。
プールやジムやラウンジまであるしな。
しかしながら、ベランダで布団や洗濯物が干せないというその一点で俺は住みたいとは思わない。
寒い冬の夜に食事と酒を堪能した後、太陽光をたっぷりと吸った布団で寝る幸せといったらこの上ない。