「一番好きな作家は?」

と問われれば、迷わず、

「大薮春彦」

と答える。

どの作品も暴力に満ち溢れた、というよりも大薮作品から暴力を抜いたら何も残らない作風を愛してやまない。

中でも俺にとって特別な一冊がある。

ヘッド・ハンター

昨今ではヘッドハントと聞けば企業間の引き抜きを連想するだろうが、そこは氏の作品であるので純粋にトロフィー級の角を狙うハンターが主人公の小説である。

アラスカなどの山奥で野営しながら大物を追う、そんな日々の描写が延々と続く。

登場人物が主人公一人だけなので、粋な会話など皆無。

追って、撃って、食って、寝る...ただそれだけ。

作中に漂う孤独感が俺にはたまらない。

俺は山に入って野宿したい熱がフツフツと沸いてくると、残念ながら今の俺には叶わぬので、そんな気持ちを紛らわすためにヘッド・ハンターを繰り返し読む。

するとアラスカの大自然の中に一人放り込まれた気分になり、幾分かは気持ちが治まるのである。

このような精神作用が働く小説を俺は他に知らない。

昨今では女性一人でも手軽に楽しめるソロ・キャンプが大流行中だが、ヘッド・ハンターはその対極にあるヘヴィー・ソロ・キャンプ小説でもある。

もう何度読み返しただろうか。

話の最後はヘリを使ってトロフィー級を狩り漁る極悪密漁集団を皆殺しにするというおまけ付きで、いかにも大薮作品らしい。

大薮春彦先生、素敵な作品を数多く残して下さり、心より感謝します。